お知らせ
映画紹介 ラトビア発、黒猫の冒険!「FLOW」
ラトビア発、黒猫の冒険! 「FLOW」
(2023年、85分、ラトビア・フランス・ベルギー制作、2025アカデミー賞長編アニメーション賞受賞)
1頭の若い黒猫がとある一軒家のベッドで目覚め、外に出かけてゆく。森で鹿の群れに驚き、捕まえた魚は犬たちに追い回された末に横取りされ…。だが水と緑に囲まれた家にもその周囲にも人の気配はない。魚捕りは遊びではなく自力の食糧調達だったらしい。人間はいつどこへ消えたのか?わからないまま、やがて水が嵩をまし、洪水となり家や山をのみこんでいく。黒猫は漂流する小さな船に飛び乗るが、犬や猿もそこへ避難してくる。空からは猛禽が襲ってきて…。
よくあるお話だと登場する動物が人間の言葉で会話しながら助け合って困難を乗り切っていくのだが、この作品では鳴き声はたてても言葉は発しない。極力擬人化をせず、それぞれの本能に基づいた動きで対立したり結果的に協力したりしながら、どこかで見かけた都市や風景が水面からのぞく世界を漂っていく。
観客には洪水や人間消失の原因はもとより、彼らが何を感じてどのような行動に出たのか説明されない。困難に努力して打ち勝つとか、多様な価値観の持ち主が協同することの大切さなどのお題目は一切なし。解釈は見た人次第。まさに21世紀の黙示録。派手なCGは使ず、ストーリーも、全世界の水没という設定自体が十分ドラマチックではあるものの、過度に刺激的な出来事は起きない。淡々と進んでいくこの物語が、どうしてこんなに美しいのか。ギンツ・ジルバロディス監督はラトビア出身。
前作「AWAY」に続く長編第2作である「FLOW」は、米アカデミー賞をはじめ、世界各国で映画賞を受賞し、高い評価を得た。この物語の主人公は若い黒猫。黒猫は全般に人気が低く譲渡会でも里親さんが見つかりにくいときくが、このアニメーションのおかげで一躍人気があがったとか。
2025年4月現在、全国劇場公開中。公式サイト (https://flow-movie.com) (F・N)